シンポジウム

「地域医療」を考えるシンポジウム

2008年3月30日 主催日本共産党吹田市議会議員団

 後期高齢者医療制度、深刻な医師・看護師不足、小児救急、公的責任等「医療崩壊」が深刻な中、安心して健康に暮らすための地域医療とはどのようなものなのか?必要な地域医療を守るために何が必要なのか? 医療関係者や市民が地域医療をまもる道をともに考えようと、日本共産党吹田市議会議員団が3月30日、「『地域医療』を考えるシンポジウム」を開きました。会場には、満員の150人が参加。医師会長や市民病院総長、救命救急センター長はじめ、吹田の医療界の第一人者がパネリストとなり、討論しました。

基調講演 原田佳明

 保険医協会勤務医部会が実施した「勤務医の労働環境と意識に関する実態調査」の報告と、大阪府南部、兵庫などで地域医療の崩壊が進行している実態について分析し、医療崩壊の原因についてお話をいたします。
一昨年の11月から12月にかけて大阪府内の病院診療所に勤務する医師を対象にアンケート調査を行いました。回収数560で、回答していただいた先生は男性が74%、女性が21・1%で平均年齢が45・3歳、常勤医が90・2%、非常勤が8・8%でした。主な診療科は内科、外科、整形外科、小児科、産婦人科とほぼ勤務医の分布を代表したものです。職位ですが、今回の調査では医長、部長、副院長、管理職が53%と多く、若手の医師が35・4%で、初期研修医が5・2%でした。直近1週間の勤務時間を聞きますと、週40時間未満は13%に過ぎず、46・4%が週60時間以上勤務しています。これは1ヶ月に直すと80時間の超過勤務です。厚生労働省が言うところの過労死認定基準に相当する勤務時間を46・4%の勤務医がこなしています。
科による違いというものがあります。いま問題になっている小児科、産婦人科はやはり勤務時間が長い傾向にあります。循環器科、消化器科に関しても勤務時間が長いという結果になっています。
「宿当直がある」と答えた358名の方に勤務実態を尋ねると7・5%の方が仮眠がとれない。宿当直時の連続勤務時間は24〜36時間は194名(54・2%)36時間以上は32・7%おりました。ほとんどの勤務医では宿当直時には24時間以上の勤務になります。
今回の調査では厚生労働省の労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストというものを利用して疲労蓄積の自覚症状を調査しました。1週間の勤務時間でみますと、40時間未満の医師では平均値が8・2であったのに対して、80時間以上の医師では14・7と労働時間が長くなるにつれて疲労蓄積するという結果でした。
長時間働くと注意力等が失われますので、医療事故や「ひやりはっと」との関係をみてみました。過去1年間に医療事故や「ひやりはっと」の事例があるとの回答が41・4%、ないが47・3%でしたが、週当たりとの勤務時間との関係をみますと、40時間未満は2割程度であったのが、80時間以上になりますと6割近くの方が経験があるという答えで、やはり長時間労働が医療事故や「ひやりはっと」につながるという結果です。
近年、医療に対する市民の方々の意識が高まったことも関係があると思うと思いますが、「過去1年間に患者や患者家族から不当な扱いを受けたことがあるか、その内容は」との問いには、45・0%の方があると答えられて、内容は、「暴言・侮辱」という言葉の暴力があったという医師が43・2%、「直接的な暴力を加えられた」という方が3・6%ありました。
このような実態の一因として、勤務医自身が労働基準法とか、就業規則に関して疎いということがあるのではないかということで調査をしますと、「雇用契約を結んでいる人」は53・9%、「就業規則を読んだことがある方は」45・23%、労働基準法で決められている「"36協定"を知っている人」は23・2%で、「知らない」と答えた方が75%です。労働に対する意識というものも原因のひとつと考えられました。
勤務医が将来をどのように考えているのかを問いますと、「やや有望でない」「有望でない」をあわせますと58・1%が未来に希望がもてないという経過でした。
将来の希望を問いますと「勤務医を続けたい」という方が61%、「非常勤医として勤務したい」という方が24%でした。「開業したい」という方が20%でした。
現在の仕事への満足度との関係は、「満足」「どちらかと言うと満足」と答えた方が勤務医を続けたいと答えられて、非常勤医として勤務したい、開業されたいという方になりますと、「どちらかと言うと不満」「たいへん不満」という方が増える結果になっています。
医療崩壊の実態で大阪南部がたびたびマスコミ等にとりあげられています。このきっかけになったのは、2004年の新臨床研修制度で、各大学から地域の病院に対して医師の派遣ができなくなった。小児科の例ですが、南大阪病院の小児科がなくなり、大阪市南部の小児救急が隣接する松原と堺に流れこんだ。堺市の病院も医師派遣が受けられなくなった。責任者である小児科部長が次々と倒れ、一昨年6月に深夜の小児救急を行うところがひとつもなくなった。その解決策として半年後に、泉北に急病センターがスタートし、土日の救急といったものを市内の勤務医、大学病院、母子センター、在宅小児科医などが担うようになっていまは動いています。
ドミノ倒しのように医療崩壊が大阪南部では進行している。それに比べてこの地域の「豊能広域こども急病センター」は2001年の段階から2004年の臨床研修システムが変わるということを見越して対策をたてられ、2004年4月から医師会、薬剤師会、大阪大学小児科、国立循環器病センターが協力してオープンされています。その結果として、それまで各市の病院に行かれていた一次救急の方がセンターに大部分行かれる。これは大阪大学小児科がバックアップしたことが大きく、小児の救急に関しては先進的な地域となっています。
兵庫の例ですが、兵庫県立の柏原病院が最近よくマスコミで報道されています。この病院も夜間の救急受診が多く、結果として小児科医がやめて、最終的になくなるかもしれないとなった時点で、市民運動が結成され、市民に対する呼びかけをされた。コンビニ受診をさけよう、子どもに対する正しい知識を持とう、かかりつけの開業医に早めに受診をしようという運動をされて、その運動がはじまってからは夜間の時間外診療が減り、柏原病院が立ち直ったという例が報道されています。
小児科のことを中心に言いましたが、内科でも同じようなことが進行しています。阪南市立病院の例ですが、11人いた常勤医師が今年の3月で7人退職、過重労働のために内科の医師が一斉に退職した結果入院患者が激減し、阪南市の市の財政にも影響を与え、財政再建団体になるおそれがでてきております。現在は非常勤医を手配することで一時的に入院できるようになりましたが、ただこれは非常勤医で回していくという話ですので、なかなか厳しいのではないかと思います。
調査と、医療崩壊の実状を話しましたが、一番の問題は、法を守った働き方では現在の医療は成り立たないということです。なかでも問題になっていることは、日当直と36協定です。日当直の扱いにしますと労働時間というしばりから免れる。それから割増残業手当からも免れるということで、実態は夜間勤務があるにも関わらず日当直という扱いになっている。原因は36協定を結んでいないか、医師の知らないところで36協定が結ばれていて、ちゃんとした36協定に関する意識がないということだと思います。もしも労働基準法を守った働き方にすると、県立奈良病院の例ですが、日当直であるにもかかわらず出産とか分娩をしていたということで、当直でなく超過勤務だと訴えており、2年間で1億700万ぐらいの不足分があるというふうに言っております。金銭的な要求をしているというよりも、いまの実態を改善してほしいという訴えであったということです。
産婦人科で言えば、医療事故で話題になった県立大野病院の医師です。医師が診察している患者さんの前で逮捕された。これに対して福島県警本部が逮捕した署に本部長賞を授与し栄誉をたたえた。検察は禁固1年を求刑していると聞いていますが、このようなことがありますと、ますます産婦人科から医師が遠のくという原因にもなりかねないと思います。
なぜこのような医療事故が起こるのかというと、OECD2007によると日本の医師数は人口1000人当たり2人です。これはヨーロッパの国々に比べても、イギリス、アメリカに比べても少ない。「勤務医が大変だから他の医療従事者に仕事を分担させればいい」ということがよく言われます。OECDのヘルスデータには日本の総医療従事者の統計が載せられていない。それではデータがないのかと言えば、国勢調査の推定値で数字が出ており、その実態として4・32%です。医師の数も少ないのですが、医療従事者も少ない。ですから医師の仕事を分担する人手もいない。なぜそのようなことになるかと言えば、結局、GDPに対する日本の医療費は8%です。イギリスが日本よりも少なく7%でしたが、2001年以降、ブレアが「医療費を2005年までに1・5倍にする」と宣言し、2004年の段階で日本は抜かれています。ですから日本は現在、先進国の中でもっとも医療費を使わない国です。他の国は2000年以降、むしろ医師を増員し、医療費の総額を増やすというのが一般的な動向です。日本では逆行して、2000年以降医療費をドンドン減らしてきている。去年の財政諮問会議でも「今後5年間にわたって2200億円ずつ国費負担を減らす」ということが言われています。国費負担を2200億円減らすには、医療費を毎年1兆円ほど減らさないと国費負担は減らない。この大本になったのは1983年に厚生労働省の保険課長、のちの社保庁の長官、厚生次官であった吉村仁さんが書いた「医療費をめぐる情勢と負担に関する私の考え方」の中に「医療費の総額抑制」ということを謳われています。そしてまた第2の対策として、「健診事業を充実させたほうが医療費が減る」ということを謳われ、いま話題になっているメタボ健診の原型は1983年の時点で考えられていたのです。また第3の対策として、過剰部分の見直しとして、「医師数を抑制」がこの文章の中に謳われています。ですからいま現在、厚生労働省が医療政策でやっている全てのことがこの文書に謳われています。
よく一般会計に占める社会保障費の伸びということが言われます。一般会計ですが、この中でピンクと黄緑の部分が社会保障費、ピンクの部分が年金です。こちらが医療費です。ですから社会保障費が全体に伸びているのですが、年金部分の方がむしろ非常に伸びていることになります。先ほど申しました国費負担を2200億円減らすというのは、国保の負担部分です。要するに国保の場合には政府管掌保険や組合健保とはちがって、加入者以外は事業者負担がありませんので、残りの公的負担というものが一般会計からの負担になります。
これは保団連の資料ですが、医療費と公共事業費を他の国と日本で比べたものです。公共事業というのは他の国は医療費に比べて少ないです。日本は公共事業が医療費よりも多い。これは1998年のデータです。その後、一般会計からの公共事業費は非常に減って、医療費が増えてきているのですが、これにもからくりがあります。よくいま道路特定財源のことが話題になっていますが、特別会計からいろんな支出がされています。支出部分で国債償還費というのが非常に増えています。国債という形で、建設国債、特例国債、借換国債とか、財政投融資という部分で公共事業のほうに金が流れていく。一般会計から減っていると言いながらも実際には急激に公共事業費が減っているわけではありません。
見えてきたことは、ほとんどの医師は通常勤務の後で、当直を実施して翌日の勤務で24時間以上の連続勤務が強いられている。法令遵守ということが大事だろうということと、長時間働ければ疲労蓄積し、医療事故や「ひやりはっと」が増加して開業、転職、非常勤の希望が増加するということになります。医療事故というのはもちろん患者さんにとっても不利益ですし、開業、転職が続けば病院崩壊につながります。約半数の勤務医が言葉の暴力、身体的暴力を受けているということは対応しないといけない問題です。
大阪、兵庫や奈良の事例から考えますと、小児科、産婦人科というところから医療崩壊ははじまっています。柏原病院のほうでも小児科を守る会と、患者さまと医療とが手を携えて対策を考えたことも大切だと思います。
北摂地域の「豊能の子ども急病センター」はいろいろ問題があるかもしれませんが、全国に誇れる仕組みでぜひとも守っていただきたい仕組みです。小児科、産婦人科だけがなくて、内科でも過重労働が退職する医師が増えています。過重勤務をしますと結局は医師が退職して地域医療が崩壊するという形になります。保険局長であった吉村仁さんの「私の考え」というもの、個人的な考えから医療費の総額と医師の抑制がはじまったのですが、もっと根拠に則った行政をしていただきたい。

パネラー 小谷泰

 吹田市医師会の小谷でございます。2006年に「持続可能な制度を構築する」ということで医療改革関連法が成立しました。この頃から国民を医療から遠ざける方向へむかいはじめているように思います。高齢化を考慮しない療養病床の再編、高齢者の負担金の値上げが行われているわけです。日本では公的医療保険制度の最大の特徴はフリーアクセスと言いまして、いつでも、どこでも、誰でも受診することができるということです。これが平均在院日数の短縮化を通じた一般病床の削減とか、療養病床の再編ということは、受診する場所を非常に少なくしていくというものです。負担金の値上げは、直接受診抑制につながります。これは各個人間の格差を拡大するものだと思います。こうした中で、国民の間では今後受診する医療の格差が拡大することへの危惧が高まっております。安心して医療を受けるための環境整備というのが重要な課題になってきております。ご存知のように日本の医療費は諸外国に比べて低く抑えされています。そして、この医療費を抑制したために望ましい医療を提供できずに、過重労働を強いられ、結果として国民や患者に悪影響が及んでいるのではないか。それから日本は世界で最長の平均寿命を達成しており、国民が受けている医療や、医療制度に満足しているのかということ、そしてさらには医療の中身を評価し、向上させるシステムとか環境がどうなっているのか、というような観点から、日本医師会には日医総研(日本医師会総合政策研究機構)がございまして、ここで「日本の医療に対する意識調査」を行っております。「国民がどのような医療を求めているのか」、あるいは「医療提供者が安心してよりよい医療を実践するのには何を提起すればよいか」というような視点で今後の医療のありかたを検討した結果です。これを少し紹介させていただきます。
まずは、国民のニーズですが、自分の受けた医療について「満足」とか、「やや満足」という人は83%います。医療機関にかかっている患者になりますと85%と少し増えています。かかりつけ医を持っている場合の満足度というのは92%です。それに対してかかりつけ医をもっていないという患者さんには70%が満足と出ています。このへんに差が出ています。「日本の医療全般についてみんな満足しているのか」という質問に対しましては、「やや満足」「満足」と答えた方は51%です。現在医療機関にかかっている患者さんでは64%です。受けたい医療の満足度に比べると日本医療全般の満足は低く、この両者との間には明確な隔たりが出ています。このことは実際に受けた医療への満足度は高いけれども、医療制度を含む医療全体に対する満足度が低いということです。それから「地域医療態勢の要望」としては、医療に対して国民が望んでいる重要な課題で最も高いのはやはり「夜間・休日の診療所」とか、「救急医療態勢の整備」でした。次に高齢者などが長期に入院できる入院施設、さらには医療従事者の資質の向上ということでした。厚生労働省は「高齢者は在宅へ」という図式を示していますが、高齢者医療について国民は「入院医療施設の確保」を強く要望していることが分ります。また、国民が求める医療制度保険は、現在医療制度改革によりまして病床数の削減が進み、受診が抑制されつつあるのですが、一部では混合診療の解禁とか、保険免責性の導入ということを主張しておりますが、これらが導入されれば、所得の格差によって受けられる医療にも格差が生じるということになるわけです。今回の調査で国民の7割強、患者さんの8割近くは所得に差があっても医療には差がないことを強く望んでおります。一方、医師についてみますと所得差に関係なく同じ医療を受けられる意見に賛成という声が、国民患者とか患者さんに比べますとやや低い傾向がみられます。これは公的医療保険でカバーされていないために実施できない医療行為があることへの苦悩の表れと推察されるわけです。だからこそ公的医療保険は堅持されて、その範囲は拡大されるべきです。公的医療制度の範囲を縮小して受けられる医療の格差を助長するようなことが決してあってはならないと思っています。
後期高齢者診療料というもの、すなわち外来の包括、あるいは"まるめ"という表現になりますが、これは後期高齢者に「粗診・粗療」になる可能性が非常に高いわけで、74歳以下と段差を付けないという基本方針に反するわけです。国民にとっては非常に評判が悪い制度だと思っています。
地元吹田市の医療提供側の実態を少しご紹介します。現在、吹田市医師会は544名おります。そのうちで開業している先生が293名です。この開業している先生方の平均年齢は、59・2歳でして、全会員で60歳以上の先生方は38%を占めています。医師のほうにも吹田市医師会では高齢化が進んでいます。
いま問題になっています小児科と産婦人科についてみてみますと、小児科では30代40代の先生は1人もいない。50代の先生が5名、60代が6名、70代が3名、80代が2名ということで16名の先生方がいらっしゃいます。これは全体の6・5%にあたります。また産婦人科では30代の先生は1人もおりません。40代の先生が1人、50代の先生が10人、60代の先生が1人、70代1人ということで80代の先生がまだ2名おられ、15名の先生がいます。これは全体の6・1%にあたりますが、ただいま問題になっている産科を取り扱う診療所はたった3ケ所です。以上のように小児科では60代、産婦人科では50代の先生が中心になって吹田の医療を担っていますが、いずれも高齢化ということです。
小泉政権下で閣議決定されましたレセプトオンライン化などが義務づけられますと、高齢の先生は自分で何百万もかけてこれを導入しなければならないという状況に追い込まれます。果たして現在の診療報酬の中で、診療所の経営がうまくできるのかどうか、非常に不安をかかえておられます。おそらく診療能力が十分におもちの先生であっても高齢ということ、あるいは電子化ができないということで廃院に追い込まれる可能性が十分に考えられ、ますます医師不足に拍車がかかることが心配されます。
聖域なき構造改革と聞こえはいいみたいですが、人の命とか、人の健康というものは絶対に聖域でなければならないと個人的には思っています。これが崩れたときにはやはりこの国は危ないだろうという感じを現在もっております。

パネラー 椿尾忠博

 吹田市民病院の椿尾でございます。昨今、医療報道が多くなってまいりまして、我々からみますとやっと納得し得るような内容になってきております。以前の医療報道は医療側が悪いとした医療バッシング的な記事が多くて、医療側と患者さんとの関係がギクシャクするようなものでした。最近、ある新聞記者の講演を聞きますと「救急患者のたらい回しという報道は間違いではないか」ということを言っておられました。なぜかといいますと、医療の現場の実情を分析され状況がよく分かりだすと、「たらい回し」という表現は不適切であるということでした。いろいろな医療問題がある中で病院の医師不足、医師の過重労働そして救急医療について市民病院の実状を踏まえてお話しをします。
医師不足についてですが、先程の基調報告では泉南地域はひどい状態ですが、北摂地域はまだ機能している方だと思いますが、それもいっぱいのところで機能している状況と思います。市民病院での医師数ですが、この4月では常勤医が64名、前期研修生は別として後期研修医と非常勤医師で33名、計約100名弱で運営しています。昨今の医療の高度化、患者さんへの説明(インフォームドコンセント)、電子カルテなど以前に比べて多くの時間を要します。したがって今までの各科の定数配置から1人ないし2人増やさないと過重労働を防げないと思います。産科は24時間体制で帝王切開も夜間にしないといけない、そういう状況でもう少し人がいります。麻酔科では現在夜間の救急手術を毎日受けることができません。日を決めて受け入れている状況です。放射線科医ですが先程の基調報告では勤務時間たいへん長いとのことでした。病院機能の中心的な役割を担い重要な部門で医療の高度化がめまぐるしく進む部門でもあります。内科ですが、呼吸器内科の医師不足は大阪府内でも深刻です。当院の呼吸器内科の医師も昨年急に辞められ1年間休診でしたがこの4月に2名来ていただけましたが、もう少し増やさないといけないと思っています。このような中で、1人の医師が辞めますと他の医師に負担がかかり過重労働になり病院を辞めていくという悪循環になります。
医師の時間外勤務時間についてですが、当院における平成20年2月分を調べました。入退時のタイムカードの時間から取り出したデータですが、部長以上では内科で平均89時間、外科で85時間(月2〜3回の当直含む)、医長では内科で平均84時間、外科で105時間(月3〜4回の当直含む)、医員(研修医含む)でみますと平均91時間(月4回の当直含む)でした。また、当直明けの継続勤務ですが平均6時間でした。厚労省の調査でも平均90時間以上であり、先程の基調講演のアンケート調査でも同様であった。
救急医療ですが、市民病院は2次救急です。平成19年11月の1ヶ月の救急患者数は1538人で、その内、救急車は約20%でした。断らざるを得なかった方は73人、約4%で救急車からの依頼の方でした。その理由として、救急患者の重複の場合、当直医が処置中の場合、病気が専門外の場合などがあげられました。今までは「できるだけ断らずに受けるようにと言っていましたが、やはり無理をしますとリスクが高くなり断らざるを得ない状況をご理解下さい。当院は2次救急病院と述べましたが、救急受診される約60%〜70%の方は救急処置(入院を含む)をあまり必要とされない1次救急の方でした。今の救急医療を守るには、医療施設の機能の分担すなわち診療所(かかりつけ医)―病院・中核病院―高度医療施設(阪大・国循)の夫々の役割を市民の皆様に理解をしていただき、吹田市にある医療資源を有効に活用できればと思います。

パネラー 甲斐達朗

 2年前までは府立の千里救命救急センターでしたが、2年前から済生会千里救命救急センターと変わりました。救急の話をしていきますと、患者さんが一次救急患者とか、二次救急、三次救急ということを言われますが、非常に独特な日本の制度でして、たとえば風邪引きとか、入院が必要ない軽症な患者さんがおられますね、そういう患者さんを医者の言葉では一次救急患者と呼んでいます。そういう患者さんを普段は昼間でしたら診療所に診てもらえますね。夜間だとどうしても診てくれる病院の数が減ります。そうすると市で夜間や休日のための診療所をつくってそこをカバーする。二次救急患者さんというのは、入院が必要でたとえば脱水を伴う風邪であるとか、虫垂炎であるとか、骨折であるとか、そういうのは二次救急医療といって、みなさんが言う救急病院にカバーしてもらっています。幸いこの地区には、すべての市に市民病院があり、そこでカバーしてもらっている。三次救急というのは、入院が必要で集中治療が必要になる。たとえばどんな病気かと言いますと出血が止まらず、血圧が下がっていくような外傷であるとか、心筋梗塞であるとか。頭も胸もお腹も全部すべてケガしているという場合、普通の単科では診られません。そういうのは三次救急、ここでは千里救命救急センターと阪大があります。普通は厚生労働省の基準では人口100万に1カ所ですが、この地区は人口100万で2カ所あります。大阪では堺にも医療圏がありますが、そこはありません。ということは非常に恵まれているところです。循環器は国立循環器病センターがありますね。当然高度な救急の医療をしてもらっています。
それらが機能すれば全く問題ないのですが、みなさんが家で胸が痛いとか、外で事故でも起こしたとします。消防署から救急車が来ますね。消防のほうでは、いろんな病院からいま患者さん診れる情報をコンピュータで全部もっているのですけど、実はいま新聞に書いてあるように病院がぜんぜん受けないとか、入れても正確な情報がない。逆に言えば、医者の立場からすると、一生懸命に患者さん診ているときに横のコンピュータをみれない。事務は事務で患者さんが来ればカルテをつくるとかして、コンピュータをみられない。そういうことが実際にあります。救急車がみなさんのところへ行きますね。そこで医者じゃない、救急隊員がみなさんを診て、これはちょっと重症かなぁと思えば二次救急に運びます。これはえらいことやと言えば救命救急センターに運ぶでしょう。実はいちばんはじめに重症度を決めているのは日本の場合は医者じゃなくて、救急隊員です。これが外国とちがうところです。外国のERとはシステム的に大きくちがう。初期医療で診て、これはちょっと手に負えないなと二次とか、二次から三次にと回っていく段取りのシステムをつくったんですけど、実は二次でも、ここの病院がたくさん患者さんを診れないという状態になれば、仕方ないから三次救急に運ぶ。というようなことがいま現実に起こっています。と言いますのは、この地区でも二次を診る病院の数が減っています。そうすると必然的にその人を一次にもっていくわけにはいきませんね。三次にもってきます。それで救命センターのベッドが満床の状態が続いている。
今、入院の話をしましたが、いちばん問題となっているのは、救命救急センターで重症な患者さんを診ても、5日入院したら退院できるわけではない。2週間、3週間、問題点は救命救急センターにするとみなさんびっくりするぐらいお金をとられます。1日10万ぐらいとられます。返ってはきますけど、2週間しかとれません。2週間でみなさんが退院してくれれば、どんどん機能して常に重症患者さんが流れていきます。でもそんなことないですね。実はここである程度落ち着いたら二次とかへ移ってほしい。そこの態勢がいまうまく進んでないためにここで止まってしまう。だから入口と出口と両方考えないとダメ、そのどちらもいまちょっと問題です。
千里救命救急センターのER、1人の患者さんを診るためにこれだけの医者がいります。ICU12床ですが、看護師6人、医者は必ず24時間おります。ということはすごく人件費がかかる。先ほど基調講演で宿日直でなくて、2交代でみれば当然いいのです。2交代にするためには医者の数がすごくいります。ということは人件費がいるということです。千里救命救急センターの人件費の割合が62%です。会社なんかを経営している人なら分かると思いますが、倒産します。これは府立のときだったら府会議員の先生にがんばっていただいて補助金をもらってました。それがなくなって済生会になると、民間の病院ですよね。そうするとそういうことはできません。工夫して24時間勤務と8時間勤務を組み合わせています。常勤医が29人、初期研修を入れると30人以上の医者がいます。夜間は当直医が7人から8人態勢で組んでいます。だから人は十分にいてるんですけど、問題はそれをしようと思えばお金がかかるということです。先ほど日本の医療費云々と言われましたね。やはり救急のほうに医療費を投資しないとそういう体制はつくれない。吹田市消防本部のこの10年間の救急車の数。明らかに増えてます。これは吹田だけではなくて、豊能地区、大阪、日本全部そうです。それに比例して医療施設が増えているか?
救急車搬送数は、1万から1万6000ぐらいに増えていますね。受ける体制が増えていたら問題ない。医者の数は全然増えていない。どこかで問題が起こるのは当然です。1月2日、救命救急センター6件に断られて亡くなった人がおられましたね。最終的にうちの病院に来たのですが、これは府下の救命センターに運んだ症例です。その中で、救急車で30分以内、9割がそうですが、これでみると30分とか60分とか、おそらくこの前の症例はここに入ったんですよね。1・7%。これは去年のデータです。この1月のことがあって、去年1年間のデータを全部調べました。それでみますと救急車が救命センターに照会した数が11回以上あった。284あるんです1年間で、その中で60分以上かかったのが87件。これってたいへんですよね。救命救急センターに運ぶということは重症だから運ぶ。だけども実際にはこういうことがいま起こっています。
うちの病院でドクターカーというのがありまして、みなさんが重症だと消防に電話しますね。消防から「これは重症です」とうちの病院に電話かかると、医者と看護師が乗った救急車が現場に行きます。中にはすぐに治療できるものを積んでいます。電話だけでは重症と言われても現場に行ったらそうでないこともあります。そこからこれは重症だとなれば救命救急センターに運ぶ。いっぱいだったら他のところに行くよう医者が言います。重症患者に関してはメディカルコントロールと言いまして、救急隊員だけではなくて、医者が全部判断しています。おそらく日本でいちばんいい地域だと思います。実はドクターカーを動かすのに年間5000万ぐらかかります。都会の中ではドクターカーシステムを人口100万ぐらいにひとつつくることによって、おそらくいま重症患者のたらい回しと言いますか、これがなくなります。これがもっと整備されるといま問題となっている患者さんの入口の面は大丈夫です。ただ入院した患者さんの出口になる面はまた次の問題で、それも大きな問題として残ってきます。

パネラー 山本智光

 高齢者の方の現状をお話させていただきます。吹田市内には特別養護老人ホームが11カ所、その施設長さんが集まっての会議というのが年に数回もたれます。その中でのいまいちばんの話題というのが、「介護職員がいない」ということと、「救急搬送病院がなかなか決まらない」ということです。先ほど日本でいちばん救急医療が優遇された地区だというお話がありましたけれど、実感としてなかなかそういうふうに思えません。
実際「いのこの里」におきまして2007年度1月からこの3月末にかけまして入院した事例を1件1件精査しました。「いのこの里」は定員が80名で、平均の要介護度というのが4・1、平均年齢が83・4歳の方が入居されている施設です。1年間入院された件数が59件、そのうち救急車を利用した件数が22件。夜8時から朝7時までを夜間とし、それが9件ありました。だいたい1週間に1人入院することと、月に2回は救急車で病院に運ばれていることが明らかになりました。高齢者のみなさんが共同で生活している施設がたくさん増えてきています。その中で救急搬送病院が最後のとりででして、高齢者福祉施設からみて救急医療機関の存在というのはほんとうに大きな役割をもっています。
認知症高齢者の方の入院は、ホームや自宅において、一生懸命その方の尊厳ある暮らしをしているのに、入院してしまうとどうしても食事が置きっぱなしになっている場面もみます。病院の看護師さんなどの人員配置もたいへんなのはすごく分かるんですけど、面会に行くと本当に心苦しく思って何とか早く帰ってきてほしいという思いにかられます。ご家族の方は患者さんの食事の介助とかお手伝いしたいと思うのですが、そのご家族の方も最近は高齢化してきており、老老介護の問題も深刻です。また認知症の方ですけども、少し回復するとお元気になられて点滴を抜かれたりだとか、病院にとっては迷惑な患者さんになってしまって、元気になられるのはいいことなんですけど、病院では「ちょっとたいへんですので……」と退院を迫られてしまうことも多々あります。病院が悪いとは全然思いません。本当に今にも生命にかかわる方もいらっしゃる中で、「そちらを優先される気持ちはわかるんやけども……」というようなことも看護師さんとお話ししたこともあります。そういう中で私達介護に携わっているもの、また介護に携わっている方のご家族の思いとして今日はみなさんに知っていただけたらというふうに思っています。

パネラー 山下よしき

 「わずかな年金でおかずのないご飯も食べております」など貧困にあえぐ人々の声を直接福田首相にもぶつけさせていただきました。ぶつけがいのない方だなといま、感じています。医療の問題について国会で質問をいたしましたが、これを中心に報告をさせていただきます。
昨年の10月23日に質問いたしました。まずとりあげたのは奈良で妊婦さんが死亡されたり、死産されるということが一昨年と昨年相次いで起こりました。この問題について現場の声をふまえて質問いたしました。妊婦さんと新生児のいのちを守る総合周産期母子医療センターが全国にいまつくられているのですが、奈良にはまだありません。これは大きな問題だということが分かりました。総合周産期母子医療センターを開設するためには医師の確保と看護師の確保がどうしても必要です。これは県まかせではできないので国が責任をもって医師や看護師確保をし、母子医療センターを奈良にもつくるべきだということを厚生労働副大臣に求めましたら、「分りました」とひと言ゆうているのが大事です。と、言いますのはお話にもあったように、そう簡単に医師を確保できないんですね。奈良県立医科大学がありますけれども、実は大阪の八尾市立病院も奈良県立医大から産科の先生を派遣していただいて、2年産科が休診されていたのが復活したんです。しかし、奈良の総合周産期母子医療センターをつくるために、奈良に引きあげるということになりましたら、八尾の市立病院の産科が休診となります。やはりこれは国が責任をもち、医師の確保にあたらなければ玉突き現象が起こってしまう、と問題提起しました。
それから医師不足は産科、小児科だけではない。兵庫県の北部の但馬地域で私は2年前から病院訪問しております。東は京都府、西は鳥取県、非常に広い但馬の地域に国立病院も県立病院も赤十字病院もありません。それぞれの市町村がつくった公立病院が9つ地域にあります。この公立病院が地域医療を担っています。ところがここで医師不足のため、9つの病院のうち3つをベッド数ゼロの診療所にする、という計画が一昨年の12月に発表されました。ひとつひとつの病院は地域住民のみなさんにとってはまさにいのちと健康のとりでです。入院できないとなると大変だということで、ものすごい大運動が住民の中で起こり、この診療所化計画というのは中止に追い込まれ、いまでも病院として残っております。ただ、お医者さんの集約化というのが去年、強行されまして、3つの病院それぞれ5人程度お医者さんがいたんですけども、3人ぐらいにされました。「もう、こんなところでは勤められへん」ということで、もう1人やめてしまい2人になったところもあります。そうなりますと当直が非常に大変になる。2人で回すなんてとてもじゃないけど無理です。それでもやっているのです。土・日は4連直ということを順番にやっておられて、これはもう限界です。それから救急は受けられなくなったりしております。これは医師が足らないから大きな病院にお医者さんを集めて、乗り切ろうという県の提案でしたけど、医師不足対策が地域医療崩壊させる引き金を引いているのではないかと感じています。
医師、病院の集約化・重点化は場合によっては必要なこともあると思いますが、一律にやるとやはり失敗する。地域の実状を踏まえてやるべきではないかということを提起し、総務大臣の増田さんからも「実状を踏まえてやるべきだ」という答えがありました。実は公立病院の問題は今政府が「公立病院改革ガイドライン」というものを去年の12月に発表しました。平成20年度の4月から1年かけて、「どういうふうにこれから経営をよくしていくのか、そのプランを出しなさい」ということが求められることになります。その中には経営を効率化しなさいとか、あるいは近所の病院と再編ネットワーク化しなさい。集約化ですね。公立病院ではなくて独立して法人にしなさいとか、経営体も考えなさいと。そういうことをやれば補助しましょう、ということになっております。
いちばん問題だと思っていますのは、市民や住民の声を聞く過程がない。市民が知らない間に、市民病院や公立病院がへんな方向に改革されないよう、大いに市民参加で病院の問題を考えていかねばならないなと思っております。その中で公立病院の果たす役割というのは増田総務大臣が「過疎地・へき地の医療を提供する。小児科、救急医療など不採算部門の医療を提供する。がんの研究などの高度先進的な医療を提供する。この3つが公立病院の役割だ」答えておられる。「公立は民間病院では採算をとれない部門を担っているんだ」と答えていることは非常に大事です。だったらちゃんと責任をもち、政治の役割として公立病院を守っていく、応援していくということが大事ではないかと思っております。
先ほど、お話があった救急医療の問題については今年2月のはじめに予算委員会で福田総理や外添厚生労働大臣に質問をさせていただきました。去年ぐらいから搬送先がなかなか見付からず受け入れ困難になって患者さんが亡くなるということが相次いでおります。大阪は救急医療体制が全国でも非常にすぐれていると言われていたんですが、ここでも1月2日、東大阪と大東の境目で交通事故に遇われた49歳の男性が、救命救急センターのほうに搬送しようとしたのですが、なかなか搬送先が見付からずに、1時間後に収容後、亡くなられた。大東の消防本部に行きまして、「その現場はどういう状況だったのか」ということを聞いたんです。そうすると5つぐらい救命救急センターに連絡したんですが、受け入れ拒否という言葉ではなく、受け入れができない状況にあった。すべての救命救急センターが処置中、あるいは満床ということだったので受け入れたくても受け入れられない状況が起こっていたということが分りました。政府はこういう問題を救急医療情報システムをつくって、どの病院にベッドが空いているかどうかを瞬時に消防本部などに伝達するシステムをつくるということで、福田総理も「これで解決するんだ」と言っています。しかし、たとえ情報が正確に瞬時に伝達されたとしても、満床だとか、ドクターが全部処置中だったら受け入れはできません。それだけでは解決できないという問題が起こっているわけです。なぜ、三次救急がいつも満床に近い状況かということを大阪府医師会の救命救急の責任者の方に聞きました。先ほどのご説明通りで、二次救急を受け入れる病院がどんどん減っているということが分りました。大阪府内の二次救急医療機関数は2000年の304病院がピークで、ここからどんどんと減り続けて258に減っております。二次救急の受け入れ先が少なくなり、三次救急に患者さんがまわる。そして三次救急が常に満床に近い状態になって、なかなか最後の生命のとりでとして機能していないことが明らかになっています。
なんで二次救急医療機関が減っているのかと言えば、いろんな病院の方に聞きますと、救急医療では先ほどお話があったように、お医者さんも看護師さんも24時間体制をとらなければなりません。大変お金がかかるんですね。その分診療報酬で患者さんが来なくても救急医療をしていれば、みてくれるのであればやれるでしょうがそうではない。やればやるほど赤字になります。そして、医療全体の診療報酬を減らされ、病院経営がたいへんになっています。今までの黒字の分野から救急医療の赤字をカバーしていた病院が、病院経営全体が赤字になることによって「もう救急はもたない」ということになってきている。ですから、医療費の抑制を根本的に解決しないと、この搬送受け入れ困難ということがなかなかなくならない。
そういうことで質問をやってきて私がいま感じていることを3点、報告しますと、ひとつは医療崩壊と言われている大本には国の医療費抑制政策が横たわっていることであります。日本は先進7カ国でいちばん低い医療費の割合です。但馬の病院長を訪問したときも、「医師を確保したい。一生懸命大学に行って医師の派遣をお願いしている。しかし、1病院とか1自治体ではこれは如何ともしがたい」というのが現場の先生から共通した声です。国が責任をもって医師を確保してくれ、医師数をもっと増やしてくれ、絶対数が足らないということが言われました。「医師を増やせば医療費が増えるから、医師を抑えるのが、いちばん医療費を抑える道になるんだ」ということで80年代に医師数の抑制、大学医学部の定員を減らすということを閣議決定までやったことが今日の事態を招いたいちばんの根本にあります。この閣議決定を撤回させるため、国会でも引き続き追及していきたいと感じております。
2つ目に、医療費を抑えすぎているということは今や政府・与党からも声としてあがりはじめています。昨年の参議院選挙後の国会論戦、予算委員会等を聞いておりますと、共産党だけではなく、自民党、民主党、公明党、社民党、すべての会派の方が医療の問題をとりあげざるを得なくなっております。「医療費を抑えすぎているのではないか」という声が、全ての会派から出ております。小泉さんの時以来、社会保障費の自然増分の2200億円を毎年毎年削り続けています。この間の参議院の本会議で、自民党の議員会長をされております元厚生労働大臣の尾辻さんが「2200億円自然増を減らすというやり方を2009年度からやめるべきだ」という質問をしておりました。聞いておりまして、「やめるのは2009年からではなくて2008年の方がいいのではないですか」と言いましたが、「2009年からはやめるべきだ」ということを自民党の責任者の方が言っておられました。外添大臣も、「2200億円毎年社会保障費自然増を削るやり方はそろそろ限界だ」とゆうておりました。ただ一昨日予算案が参議院で審議されたときに、「もう限外だと言っているじゃないか。舛添さん。だったら2200億円削る予算はやめるべきだ。あなた、反対すべきじゃないですか」と追及されますと、「私が言ったのは『そろそろ限界だ』」とごまかしていました。しかし、こういうやり方をずっと続けるのは限界という声が、自民党からも厚生労働大臣からも出始めたことは非常に大事なことでないかと思っております。超党派の医療を考える議員連盟が去年できまして、いま百数十名の国会議員が入っております。産科・婦人科学会の先生を招いて、いまの医療の現状、医療費が抑えられている現状をなんとかしようじゃないかということで私も入っておりますが、立ちあがりました。国会の中でこの現状を変えようという超党派の動きがいま、起こっているということも大事なことではないかと思っております。
最後に3つ目にこの医療費抑制政策を改めれば、たいへん明るい展望が開けることを私達はしっかりとつかんでおくことが大事だと思います。保険医協会という開業医の先生方の団体が、医療費全体から患者負担をのぞいた、公的に給付される医療給付費を指標にして世界の中で日本の医療給付費がどうなっているか。GDP(国内総生産)の中で医療給付費が日本は6・2%(約30兆円)ですが、フランスは7・6%、ドイツは8%、仮にドイツ並みにいまの6%台から8%まで医療給付費を引き上げれば、9兆円新たに医療に使うことができる。そのうち5兆円あれば患者さんの窓口負担をゼロにすることができる。4兆円あれば、診療報酬を10%引きあげることができる。残りの1兆円で医師の養成やへき地に行ってもらう医師を派遣することができるということをおっしゃっています。ヨーロッパ並に日本の医療費の割合を引きあげるだけでそれだけのことができるということですので、是非、そういう方向で国民の声が一層広がるように、みなさんといっしょにがんばっていきたいと思っています。

会場から4人の発言がありました。

発言 相川病院医師の松田さん

 在宅医療が様変わりしている。今までなら入院していた方、重症の方が在宅で治療せざるを得なくなっている。病院ベッドが減り、平均在院日数を減らす政策のためだ。今までだったら入院なのに在宅に。その結果、地域の診療所などが在宅患者を診るために勤務医の負担が大きくなっている。夜中に緊急処置をして、その翌日、仕事をするのが実態。
「家で看ます」という家族の善意と、勤務医の過酷な労働に依存するだけではよくない。公的な保障が必要です。


発言 障害者施設の鈴木さん

 障害者や精神障害をお持ちの方が、外科手術を断られる例があり医療を受ける困難さは解消されていません。「あいほうぷ」の施設では医療的ケアが必要な仲間が40名を超えています。まったなしです。市民病院の中で、医療的ケアの必要な障害者のショートステイを検討してほしい。医師不足について市民病院を、医師会の当番制で応援できないでしょうか。


発言 元検査技師の滝本さん

 山下議員が言われたように国の医療費が抑えられていること、赤字が増えることはわかるが、小児夜間救急について、箕面まで行かずに市民病院でできないでしょうか。


発言 小児救急なくさないで市民の会の石川さん

 吹田市から小児夜間救急が無くなったあと、吹田市で一か所は実現をと運動を続けてきました。絶対国が問題ということがわかったが、じゃどうしたらいいのかというと行き詰ってしまう。吹田はまだめぐまれている。医療機関もがんばっていることは理解できる。しかし若いおかあちゃんの小児夜間救急の願いは切実。吹田での工夫や努力がつくされたかといえば、まだ検討の余地はあるのではないか。小児科をやれる医師を増やすなど、ぜひ政策的に検討して欲しい。


パネラー 山本智光

 ある救急隊員の方と会話をしたんですが、「なかなか病院が決まらなくて、僕らも本当に辛いんや。なんとか目のまえで苦しんでおられるお年寄りを何とか助けたいと思うんやけどなかなか病院が決まらへんでごめんな」と。今までは救急隊員に対していろんな思いをもっていましたが、熱意をもってなんとかいのちを守ろうと一生懸命やっておられる。お医者さん、看護師さんも懸命にやっておられます。どこにこの怒りや責任をもっていったらいいんやろうということになればやはり国になってしまうんです。ほんとうに医療が身近に感じられない施策が次々と出されて、後期高齢者の医療制度の問題もそうですし、本当に身近であるからこそ安心して暮らすことができる。医療関係のみなさんや私たち介護関係のものが、こういう場を通じて何とかシステムや施策が提起できたらと思っております。

パネラー 甲斐達朗

 みなさんの質問をお伺い、いちばん考えているのは、先ほど三次救急の医療のお話の中の入院した患者さんの後のことです。たとえば何かハンディキャップをもたれる方、実際にそういう方を受けてくれない。そういうことが事実あることも知っております。問題は個々に同じような土俵で話をやっても全く進まない。問題は吹田とか豊能地区で、そういういった急性期の患者さんをシステマティックに、ある部分はどこがどういうことを担って、「ここまでだったらうち、みれますよ」「ここまでだったら、介護施設のうちが……」。たとえば気管切開の話とかありましたけれど、ぞれぞれ情報を出し合って、誰かが音頭をとって、全体の画を描いてしないと個々のことだけを言っておっても非常にしんどい。
いま救急のほうも、病診連携と言いまして、救命センターはほとんど転院で退院することはまずない。そうなってくるとどこまでやったらその病院が受けてくれるか。その病院が今度どこまでやったら次のところが診れるか。そのへんシステムづくりを、医師会でもいいですし、行政でもいいですし、真剣に考えていく時期でないかと思いました。

パネラー 椿尾忠博

 医療費の抑制する、これは国の大きな施策です。先ほど山下議員から「公立病院のガイドライン」ということに触れられました。平成20年度に私どもも出さないといけないのですが、経営が悪いと統廃合されていくという内容と思います。熊本に赤ちゃんポストというのがあるのですが、自治体病院が赤ちゃんポストの赤ちゃんみたいになる、とわれわれいっております。
勤務医の問題は、勤務態勢の改善というのがいちばん大事なことだろうと思います。過重労働、勤務医の給与を解決していって、勤務医が公立病院に残ってくれるようにしていく必要があります。大きな問題は救急体制で、若い先生に頼っていまして、若い先生が救急医療、当直にもっとも負担を感じておられる。いちばんリスクの高い部門です。私ども二次救急ですが、一次救急の患者さんが多い。この前、調べましたら80%ぐらいが一次救急の方で、近くの診療所で診ていただいたほうがという方や、「数日前から熱があって」というような方が夜中に来られて、頭にくるんですが、「昼間に来はったらどうですか?」とゆうよりも診たほうが早い。ですから言わないことにしている。こういうことを地域で対応していく。
先ほど紹介された丹波の柏原病院の取り組み、小児科医を地域で守っていく。コンビニ受診を控えていこうと市民から声をあげていただいている。病院の医者を守っていくという運動ができることも大事ではと思います。一次救急というのは行政の責務であると市長がゆうておられる。ですから市長が一次救急のことをキチッとおやりいただきたい。
豊能の小児の話がでましたが、あれは大成功。日本のモデル地域、小児救急のモデル地域になっています。そういう形で地域で一次救急を取り組むようにお願いしたいと思います。地域連携ですが、高度医療の地域である吹田は全国でも珍しい地域です。その医療資源をうまいこと活用していただく。市民のみなさん方のご理解をいただかないとできない。一次救急は診療所でもやる。二次救急は中核病院、あるいは病院でもやる。高度医療は国立循環器センター、阪大病院がありますから、そういう組み合わせを市民のみなさま方もご理解していただいて、地域連携を進めるという形がなんとか市民の安心・安全な医療をつくっていけるのではないかと思います。

パネラー 小谷泰

 質問のなかに小児の救急の話が出ていました。吹田市の小児科の先生方の内訳は先ほどお話をしました。40代は1人もいません。50代の後半が2人いて、あとは60代、70代、80代の先生です。先生方はさぼっているわけではなく、「豊能広域こども急病センター」には小児科の先生方は必ず出ていただいております。自分の診療をしながら、救急のほうにも出て、また吹田市で出ろというには酷な話でございます。
もちろん吹田市でも一次救急が診られる小児の施設があればいいことはよく分りますが、いまの10数人で豊能をカバーし、自分の診療をやっていきながら、吹田の場合は全員校医制でどの先生も校医をやっている中で市民病院の夜を手伝うことはできる話ではない。これから若い先生がどんどん入ってきていただくとできるだろうなと思っております。ただ小児科医、産婦人科といいますのは若い先生がなかなか入ってきていません。おそらく医師の高齢化がネックになっているのではと思います。
もうひとつ、小児の場合は少し熱出たぐらいは自分の子どもは自分のところで管理するということを、われわれが教育しなければいけないと思います。なんでもかんでも救急で行くというようなことをすればパンクしてしまいます。ハンディキャップをもっている方の場合、診療所に来られても、車いすが入るスペースがなかなかないでしょうし、段差があったりしてそういう配慮がなく診療所は建てられています。これからの問題として目を向ける方向だと思いますが、そういう診療所にするための補助でも出ると、車いすなどに配慮した診療所ができると思います。
また在宅の問題も出ていましたが、若い開業医の先生方は結構意欲的に取り組もうという動きはございます。これもいまのシステムで行きますと「在宅」「在宅」と流れてまいりますと、全くみんながノータッチというわけにはいかなくなりますので今後の課題かと感じています。

パネラー 原田佳明

 「豊能広域こども急病センター」というのは非常によくできた仕組みだと思うのです。大阪南部で医療崩壊が起きたのは、松原なら松原だけ、堺なら堺だけ、その市だけで対応しようとして無理をする。そこでドミノ倒しみたいに倒れていくということを理解していただきたい。
地域医療を守ろうとした場合、そこで働いている医師も人間なんだということを考えていただきたい。空いた時間に出てやればいいじゃないかというような考えでおられると、結局、各市が全部つぶれてしまうと思います。ですから地域の方々と医療に携わる人々とが、どういう対策をとるのがいいのかということをよく話をしていただきたいと思う。自分たちの望まないこと、できないことはやはり医師もできない。365日24時間呼び出されて、「そこへ出て来い」と言われたらそれは難しいと思う。そこで無理強いされた医師がやめていくと全体がつぶれていきます。そのことはよく理解していただきたい。
国の話になりますが、2000年以降というのは世界の潮流として医療費抑制が医療改革ではありません。米国においても医師数は増加しております。英国でもブレア以降の労働党政権では医療費を増加させていく方向にあります。いま日本の中で医療改革と言いますと、医療費抑制ばかり言われるのは非常におかしい。世界の方向から言えば逆方向に行っている。財政諮問会議の中には医療者がひとりも入っていません。これはイギリスで医療改革を主導したグリフィス委員会の中にまったく医療者が入ってなかったことと同じです。結果は医療改革を失敗させ、結局医療崩壊を招いてしまった。労働党政権になって医療者を入れて長期医療政策をとった。そのことによって医療体制が非常によくなっています。医療改革は何も医療費抑制だけではありません。

パネラー 山下よしき

 ドクターカーが都市部ではたいへん有用とのお話もありましたし、在宅や障害者、小児、夜間問題など出されましたので是非しっかりと国政に届けていきたいと思いました。根本的にやはり医療費を抑制する政策がいまの現状を生んでいること、その転換をもとめる声を医療界はもうこぞってあげていただいておりますし、それがいま国民の声に非常に急速になりつつある、ということを感じます。道路特定財源がいま国会では焦点になっておりますけれども、道路をつくることにしか使えないこの財源を、その縛りをやめて、医療や教育などにも使えるよう、「一般財源化しなさい」という声はどんどん増えていっておりまして、いま世論調査では7割が賛成ということになっております。やっぱり医療をしっかりと充実してほしいという声がその背景にあることは間違いないと思っています。
冬柴さんという方が国土交通大臣で、特定財源を一生懸命守ろうという先頭にたたれていたのですが、その冬柴さんがなぜ道路が必要かというパネルをつくっていろいろ説明しているひとつに、「道路をつくれば救急病院に速く行くことができます。奈良県の十津川村といういちばん山の中にある村に拠点病院がないから五條市に運ぶのに道を整備すれば時間を短縮することができる。だから必要なんだ。いのちの道だ」といって説明しました。私は「五條市の拠点病院がどうなっているか知っていますか?」と聞いたら「それは知りません」という副大臣の答えがありました。実は五條市の拠点病院、県立の五條病院というのがあるんですけど、ここは2年前に産科が休止になっています。いのちが救える、かのような発言をするのは不謹慎ではないかと私は申し上げてきました。ですから、特定財源のしばりをやめて医療をちゃんと充実させるようにつかうというのは、非常に国民的にも大きな共感を得るし、願いになっているのではないかと思っております。是非、医療の充実のために「財源もこうすればあるじゃないか」ということを、国民みんなの議論と認識になるようにしていきたいと思います。
それから最後にシステムづくりが大事だというお話がありました。医師を増やそうということでいまからはじても学生から一人前の医師として養成されるのに10年ぐらいかかります。その間どうするの?
という問題があります。これは地域で「いろんな問題があるよ」ということを市民も参加して、行政と医療関係者のみなさんと市民が「どうしよう」ということを考えて、いまの現状の中で最善の施策を尽くしていくということをやらない限り、やっぱり解決できない。医師がたくさん増えるまで待ってられない問題があると思います。そういう点では本当にみんなでシステムをどうするかを考えるご提起は大事だと思いますし、きょうがそういう出発点になっていただきたいと思いました。
ドクターカーが都市部ではたいへん有用とのお話もありましたし、在宅や障害者、小児、夜間問題など出されましたので是非しっかりと国政に届けていきたいと思いました。根本的にやはり医療費を抑制する政策がいまの現状を生んでいること、その転換をもとめる声を医療界はもうこぞってあげていただいておりますし、それがいま国民の声に非常に急速になりつつある、ということを感じます。道路特定財源がいま国会では焦点になっておりますけれども、道路をつくることにしか使えないこの財源を、その縛りをやめて、医療や教育などにも使えるよう、「一般財源化しなさい」という声はどんどん増えていっておりまして、いま世論調査では7割が賛成ということになっております。やっぱり医療をしっかりと充実してほしいという声がその背景にあることは間違いないと思っています。
冬柴さんという方が国土交通大臣で、特定財源を一生懸命守ろうという先頭にたたれていたのですが、その冬柴さんがなぜ道路が必要かというパネルをつくっていろいろ説明しているひとつに、「道路をつくれば救急病院に速く行くことができます。奈良県の十津川村といういちばん山の中にある村に拠点病院がないから五條市に運ぶのに道を整備すれば時間を短縮することができる。だから必要なんだ。いのちの道だ」といって説明しました。私は「五條市の拠点病院がどうなっているか知っていますか?」と聞いたら「それは知りません」という副大臣の答えがありました。実は五條市の拠点病院、県立の五條病院というのがあるんですけど、ここは2年前に産科が休止になっています。いのちが救える、かのような発言をするのは不謹慎ではないかと私は申し上げてきました。ですから、特定財源のしばりをやめて医療をちゃんと充実させるようにつかうというのは、非常に国民的にも大きな共感を得るし、願いになっているのではないかと思っております。是非、医療の充実のために「財源もこうすればあるじゃないか」ということを、国民みんなの議論と認識になるようにしていきたいと思います。
それから最後にシステムづくりが大事だというお話がありました。医師を増やそうということでいまからはじても学生から一人前の医師として養成されるのに10年ぐらいかかります。その間どうするの?
という問題があります。これは地域で「いろんな問題があるよ」ということを市民も参加して、行政と医療関係者のみなさんと市民が「どうしよう」ということを考えて、いまの現状の中で最善の施策を尽くしていくということをやらない限り、やっぱり解決できない。医師がたくさん増えるまで待ってられない問題があると思います。そういう点では本当にみんなでシステムをどうするかを考えるご提起は大事だと思いますし、きょうがそういう出発点になっていただきたいと思いました。